投稿日:2016年09月24日

事務局通信82

事務局通信82 福祉領域での一般雇用

 障害者福祉サービスのひとつである就労継続支援A型事業(公的資金で運営)では、障がい者の方と一般雇用契約を結び最低賃金を支給しています。仮に時給300円くらいの内容の仕事しかできなかったとしても、税金を間接的に投入することで時給695円(徳島の場合)がもらえるようになります
(公的資金と作業収入とを合わせたお金の中から各利用者の方に賃金を支払うので、それぞの利用者の方について、賃金のうち税金投入分がいくらかということは分かりません)。
(もちろん、A型事業所の中でも公的資金を賃金補填に使わずに済むよう、事業に力を入れている所はあります。すべての事業所で賃金補填が行われている訳ではありません。)

 障がい者の方にとってはよい話のように思えるのですが、現実はそれほど単純ではありません。

 一度そのような「福祉領域での一般雇用」を経験してしまうと、ある種の成功体験のようになって、そこから抜け出しにくくなるケースもあります。
 民間企業に行くと、当然賃金に見合う成果を求められるため、
「A型事業所に通っていた時は、もっとゆったりと作業ができた。給料は大して変わらないのに、ここの会社の仕事はきつくて大変だ」と長続きしにくいこともあります。
(もちろん、民間企業並みの経営を展開し高い生産性を実現している事業所もあります。)

 逆に地域活動支援センターや障害者地域共同作業所などに行くと、税金による賃金補填はなく、時給695円をもらえる可能性は皆無に近いため、
「A型事業所に通っていた時は、同じような仕事をして695円もらっていたのに、ここは300円しかくれない。」と不満が募ることも少なくありません。
 一度経験すると、その記憶が長年に渡って心の奥底に残り、「福祉領域での一般雇用」以外の場所に行くのが困難になってしまう方もおられます。

 近年最低賃金が引き上げられており(徳島でも10年間で620円から695円まで上がり、この10月からは716円に引き上げ)、さらに毎年数パーセントずつの引き上げが検討されています。それに伴って、A型事業所や民間企業で障がい者の方が働く際の賃金も毎年引き上げられることになります。
「福祉領域での一般雇用」の持続可能性について考える時が来ているように思います。

※追記?
 A型事業所に行ったら税金で補てんされて時給695円もらえる人が、定員が埋まっていて入れなくて地域活動支援センターや障害者地域共同作業所に行くと補填がないため低い時給になる。利用する制度によって、税金による賃金補填の有無が分かれる「格差問題」が存在します。

※追記?
 本論は、中間就労の場の必要性を否定するものではありません。制度を悪用した営利目的のA型事業者も急増している実態を考えると、中間就労の場は質的には不足していると言えます。
 問題は、中間就労の場を増やすために行われた手段(施策)にあります。税金による間接的な賃金補填の結果、作業の対価としての支給と、生活保障としての支給が混然一体となってしまったこと(現実の労働市場からのかい離)、しかもその生活保障の支給はA型事業を利用できた者に限って行われること(公平性が担保されない)、その2点が問題です。
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