投稿日:2021年07月10日

事務局通信~アフターワクチンの時代③

7月6日追記
 高知県では5.7人に1人の方が、徳島県も6.6人に1人の方が接種を完了しました。高齢者の方に限れば、全国で3人に2人は1回目の接種を終えており、2回目の接種が完了した人も3人に1人となっています。
 ゆっくりではありますが、ワクチン接種は確実に進んでいます。接種が完了したからと言って感染しないわけではありませんが、発症・重症化のリスクが大幅に低くなることは確かです。
 接種が完了した人にとっては、新型コロナは「風邪みたいなもの」になるでしょう。少しずつコロナ禍前の生活に戻っていくと思います。

 ワクチンの接種や供給に関する情報については、政府もホームページやtwitterで毎日詳細に公表しています。これを見ると、ワクチン確保というスタート地点では大きく出遅れてしまったものの、情報が少ない中で市町村や医療関係者の皆様が準備を進めて来られた結果、少しずつ遅れを取り戻していることがはっきりと分かります。
 例えば5月までのワクチン累計接種回数は約1612.8万回、人口100人当たりの累計接種回数は約12.69でしたが、6月末には約4880.6万回、約38.39と1か月で約3倍になっています。
(ちなみに6月末までにファイザー製1億回分、モデルナ製1370万回分を確保とのことですが、6月末までに接種に使用されたのはファイザー製4763.3万回分、モデルナ製117.3万回分です。残りはまだ接種の現場に届いていない、現場で在庫として滞留している、もしくは、接種したのにまだデータ入力されていない、のいずれかということになります)

https://twitter.com/kantei_vaccine
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html

 河野大臣から「ファイザー製ワクチンは、7月から9月までの間、2週間ごとにおよそ1170万回分を自治体に配分」とコメントがありました。上記の公表データと合わせて概算すると、7月から9月末までにファイザー・モデルナを合わせて約1億2571万回分のワクチンが自治体や職域等での接種に供給される見込みで、これらがすべて使用されると、国民の3人に2人(累計約8726.0万人)が接種を完了する計算となります。100人当たりの累計接種回数は約137.27で、これは現時点でのイギリス(118.2)、アメリカ(99.6)、ドイツ(93.0)を上回る数値です。
 この頃には希望者の接種はほぼ終わり、接種率が伸び悩む中、「若い皆さんもぜひワクチンを接種して下さい」と政府が呼びかけるようになるでしょう。ワクチンの用意も接種の準備も整っているのに、なかなか接種に来てもらえず、「マイナポイント」のワクチン版のような特典でも用意しないと接種率が伸びない、といったこともあながちないとは言えません。
 供給不足の問題は2~3か月で解消されますが、接種率の伸びが頭打ちとなった後どうするか、という難問は年が明けても解消できないでしょう。

 ワクチンを接種するか否かの判断基準は、新型コロナ発症・重症化・後遺症・同居家族への感染・行動制限等のリスクと、ワクチン接種に伴う時間コスト(申込や接種の手間)及び副反応・健康被害のリスクとのバランスです。
 「若い人でも重症化の可能性があり、後遺症で苦しむ人もいる」といった報道を見かけます。「若いからと言って絶対に大丈夫と言うわけではないので、甘く見てはいけません」という意味では間違っていないと思います。しかし、高齢者や基礎疾患をお持ちの方の方がはるかに重症化リスクが高いことは事実であり、基礎疾患のない若い人もこれらの皆様と「同程度のリスク」があるという印象を与えたとすると、やや行き過ぎの感は拭えません。
 重症化リスクの低い人がワクチン接種に消極的となるのは当然のことです。若い世代の生活と未来を守ることに消極的な政府が「重症化リスクの高い高齢者の方の命を守るために接種をお願いします」と呼びかけても説得力はありません。恐怖心を煽ったり同調圧力をちらつかせて脅す手法の効果も限定的で、むしろ諸事情により接種が困難な方を精神的に追い詰めるだけです。

 ワクチンを打っても感染のリスクは残ります。国民の半分がワクチンを打ったとしても、今のようなモニタリングや積極的疫学調査を行う限り、陽性判明者数は季節や人の動きの変化により何年にも渡って増減を繰り返します。とりわけ人・物・カネが集中する東京とそれを取り巻く首都圏では陽性判明者がゼロになる日は永遠に来ません。たとえ無症状や軽症であっても陽性判明者は病院やホテルに隔離し、陽性判明者数が増えるたびに緊急事態宣言を出し、飲食店、大規模施設やイベントに対する制限を続け、帰省も旅行も自粛、運動会も修学旅行も延期中止するような未来しか提示できないのであれば、ワクチン接種に消極的になる人が増えたとしても不思議ではありません。
 「ワクチンを打てばコロナ禍前の生活に戻れる」と期待して接種したのに、オリンピックだけ終わって、生活は元のまま、というのでは、国民の我慢も限界を越してしまうでしょう。「元の生活に戻れないのは、若者がワクチン接種に非協力的だからだ」と政府やマスコミが若者を悪者に仕立て上げる光景が目に浮かびます。

 新型コロナウィルス感染症の捉え方の転換が迫られていると思います。1日の陽性判明者数が3万人を超したイギリス(人口100人当たりで見ると日本の30倍近い陽性判明者数)で7月19日に制限の撤廃が行われることに対して批判の声もありますが、国民の半分がワクチンを接種したのに制限が撤廃されないとなると、接種率は伸びない、制限のため経済も回復しない、という悪循環から抜け出せなくなることは明らかです。
 統治客体意識が色濃く残る日本では「法的規制を撤廃し、市民自らが、どうウイルスを抑えるか決められるようにする」というジョンソン英首相の発言には違和感を覚える方もおられるでしょう。しかし、ワクチン接種が死亡重症化リスクを著しく低減する、という医学的知見に基づいた、極めて現実的な判断だと思います。
 ワクチン接種証明書を身分証明書のように機能させてコロナ禍前の生活に戻していく、それが世界のスタンダードとなっていくでしょう。ゼロリスクに固執しているうちに日本だけ取り残されてしまった、とならないことを願うばかりです。

7月10日追記
 7月に入ってからもワクチン接種は着々と進んでいます。7月8日まででワクチン累計接種回数は約5735.0万回、人口100人当たりの累計接種回数は、約45.11となっています(イスラエル(120.2)、カナダ(108.3)、スペイン(96.1)、イタリア(90.7)、フランス(84.9))。 山形県では5人に1人の方が、徳島県も5.5人に1人の方が接種を完了しました。高齢者の方に限れば、全国で4人に3人は1回目の接種を終えており、2回目の接種が完了した人も5人に2人となっています。

 東京都の新型コロナ陽性判明者数は増え始めていますが、これは誰もが想定していたことです。しかし無観客での開催を決めたのは開幕のわずか15日前。しかも3週間くらい前まではオリンピック会場内の飲酒を一部認めることすら検討していたことも忘れ、飲食店での酒の提供をやめさせるために、過料を科すだけでは飽き足らず、酒の納入業者への納入停止要請、さらには、金融機関に対する「飲食店への実質的な脅し」の要請という恫喝まがいの手段まで持ち出しました。オリンピックの誘惑にからめとられて場当たり的な対応を続けてきた今の政府を象徴していると思います。
 「高齢者の皆様を中心にワクチン接種は確実に進んでいる。たとえ陽性判明者数が増えたとしても、発症・重症化に至るケースは確実に減っていく。だから緊急事態宣言は必要ない」と首相自ら国民に向けて明確なメッセージを発するとともに、「ワクチン接種が進んだアメリカやイギリスよりも今の日本の方が陽性判明者数ははるかに少ない」という事実を示し、国民やマスコミに冷静さを求めていく。これが政府の本来あるべき姿ではないでしょうか。
 また緊急事態宣言発出の理由として「医療提供体制の逼迫を防ぐ」ことを度々上げていましたが、「諸外国に比べて人口当たりの病床数は圧倒的に多く、陽性判明者数ははるかに少ないにも関わらず、なぜ医療の逼迫が生じたのか」という問いに対する政府からの合理的な説明及び根本的な改善策の提示はありません。政権党最大の支援団体が日本医師会という現実の中で(4月の緊急事態宣言発出直前に、自民党参議院議員(医師)の政治資金パーティが、日本医師会会長主催で東京都のホテルで開催され、日本医師会の理事もそろって参加したことは記憶に新しいところです)、医療体制の問題にメスを入れるという勇気ある行動に着手できる政権がこの先誕生する可能性があるのかどうか定かではありませんが、この問題を放置しておけば、新型コロナウィルスよりも甚大な被害をもたらすような感染症が将来流行した時、医療の崩壊は避けられないでしょう。政府としては、新型コロナウィルス感染症の感染症法における位置づけを5類感染症に変更して、民間医療機関での受け入れをしやすくする、という政策の方が実行可能性が高いかもしれません。
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