投稿日:2021年07月15日

事務局通信~アフターワクチンの時代④

 スタート段階で大きく出遅れていたワクチン接種も着々と遅れを取り戻してきています。7月14日まででワクチン累計接種回数は約6365.2万回、人口100人当たりの累計接種回数は、約50.07となっています(イギリス(121.1)、アメリカ(100.8)、ドイツ(99.2))。東京都の陽性判明者数が第4波のピークより多い1149人に達したことが大きく報道されていますが、重症化リスクの高い高齢者の方のうち半数は2回の接種を完了している点が、5月の第4波の時とは大きく異なります。高齢者以外の世代のワクチン接種も始まっており、全体では5人に1人が2回の接種を完了しています。

 ワクチン接種の目的は「感染を完全に防ぐこと」ではなく、「万が一感染しても発症・重症化を抑制すること」です。単なる陽性判明者数の増加に一喜一憂するステージは終わり、今後は重症者数が増えていないかどうかのモニタリングが重要になってくると思います。入院期間が長期化する重症患者の方が増えてくれば、医療のひっ迫にもつながる可能性が生じてきます。
 重症化リスクの低い30代以下の陽性判明者数が増えても、ただちに重症者数の増加につながる可能性は低く、毎日モニタリングしても意味はありません。
 40代、50代へ波及し重症患者が増えることを懸念する声もあります。確かに基礎疾患をお持ちの方であれば重症化のリスクは高く、不要不急の外出を控えるなど自らの感染予防に細心の注意を払う必要があると思います。しかし基礎疾患を持たない40代、50代の方で重症化するケースは少ないことも確かです。よってこれらの世代でも高齢者の方と同じペースで重症患者数が急増するという想定には無理があると思います。

 ワクチン接種が進んでいく中で、あえて政府が国民に呼びかけるとすれば、重症化リスクを高めるような要素をできるだけ減らしていくことでしょうか。例えば成人病を誘発しやすい生活習慣、肺の損傷につながる過度な喫煙(副流煙によって周囲の人も被害を蒙ります)、過度な肥満や免疫力の低下を引き起こすストレスや食生活など…(余計なお世話だと怒る方もおられるかもしれませんが)。
 緊急事態宣言の影響で職や収入を失って生活基盤が崩壊したり、外出や移動の自粛のため喫煙や食事の摂取量が増えたり、パソコン作業の増加や運動不足で免疫力が低下したりすることで、発症・重症化のリスクが高くなったのでは本末転倒でしょう。 
 
 そもそも1年半言われ続けてきた「医療のひっ迫」は、(個々の病院の問題と言うよりは)日本の医療システム全体の問題であって、これまで隠されてきた問題がコロナ禍という非常事態の中で表面化したにすぎません。そこに国民の目が向いて持ちつ持たれつの関係が露呈すると困るので、若者や飲食店を悪者に仕立て上げることでこの場を乗り切ろうとしているのでしょう。政府やマスコミの報道を鵜呑みにすることなく、冷静に考えていくことが大切かと思います。

7月16日追記
 直近の東京都の陽性判明者数は1308人、重症患者数は57人(確保病床392床に対して14.5%)となっています。昨年の12月31日に初めて1300人を超えたとき重症患者数は89人、3週間後には160人まで増えました。この増加をいかに抑えることができるか、ワクチン接種の成果が問われるところです。
 日本全国の陽性判明者数は3418人、人口10万人当たりでは2.69人です。諸外国の人口10万人当たり陽性判明者数と比べてみると、イスラエル10.52、イギリス72.16、アメリカ7.47、スペイン58.99、ドイツ1.74、イタリア4.05、フランス16.47となっており、日本より少ないのはドイツだけです。
(ちなみにこれらの国々のワクチン2回接種完了率は、最も高いイスラエルで57.46%、最も低いフランスで38.4%、日本はそのフランスの半分の19.7%です。)

 この状況の日本で出される「緊急事態宣言」という施策が一体どういう主旨のものなのか、海外の方に説明を求められたら難しいところですが、「国民に対する強制力を伴わない感染予防の呼びかけであって、いわゆるロックダウンではない」と言えば伝わるでしょうか(頻繁に使われる「自粛の要請」というフレーズは理解されにくいでしょう。本来自粛というのは自ら考えて自主的に行うものであって、他者から要請される性質のものではないからです)。
 もっとも、この状態で「医療のひっ迫が危惧されている」と言ったら驚かれることは間違いないと思います。

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