徳島市内の福祉作業所「太陽と緑の会リサイクル」(杉浦良代表、二十九人)の月の宮作業所(同市入田町)。立秋はとうに過ぎているのに、まだ太陽は高く、農作業には十分すぎるほどまぶしい。背中に広がった汗がTシャツの色を次第に濃くする。「灼(しゃく)熱だよ」と、だれかがこぼした。

 ◆無邪気な声飛ぶ

 約三千平方メートルの畑いっぱいに茂った高さ一メートル余りの雑草を刈りつつ、潜んでいる野菜を収穫する。ずるずるとツルを引くと深緑のカボチャが出てきた。「あったー」。無邪気な声が飛び交う中で、市川智香子(24)=横浜市、投資信託会社勤務=は、昨日の出来事を思い出していた。
 「列車を降りて、太陽と緑の会の国府作業所(徳島市国府町南岩延)に着いたとき、言いようのない拒否感があった。小さいころから障害のある人と接したことはある。特別に意識しなくても溶け込む自信はあったのに、どうしてだろう、なんでだろうかって」
 上智大学理工学部で有機化学を専攻する池田邦央(23)は東京で生まれ、東京で育った。大学院への進学を決めている。この日は生活班として全員の食事づくりに当たった。
 「限られた材料から、できる限り多くのものを引き出したいという研究者の熱意が、結果的にダイオキシンを生み、社会の負担を大きくしてしまった。リサイクルの現場に、そんな行き詰まりを解決するためのヒントがないだろうか」
 太陽と緑の会リサイクルは、障害のあるメンバーがリサイクル作業や共同生活を通じ、自立する力を養う作業所。通所と泊まり込みを合わせ、メンバーは現在23人。スタッフは代表の杉浦を含めて五人。


 ◆毎夏、10−20人

 山ろくに広がる月の宮作業所の敷地は約四千平方メートル。畑や作業小屋のほか、メンバー4人とスタッフ、ボランティアが暮らす生活棟もある。鮎喰川沿いにある国府作業所(約四百六十平方メートル)は、リサイクルショップ兼仕事場。作業所の活性化と人手不足を補うため、十年前からワークキャンプを受け入れており、毎夏、全国から10−12人の若者がワーカーとして訪れる。スタッフの二人もキャンプ出身者だ。
 国府作業所に冷房設備はない。挑戦的な屋外の暑さに比べ、屋内は熱気がじっとりまとわりつく。店舗の一隅で熊倉匡志(22)=東京都中野区、日本大農獣医学部四年=が乱雑に置かれたビデオの整理をしていた。今夏、公務員試験に失敗、再挑戦するか、民間に就職するか迷っている。
 ワーカー歓迎会では、脈絡もなく芸能人の名前を連呼するメンバーと盛り上がった。「すんなり受け入れてもらえたようだが、これがずっと続くとなると、きついかもしれない」。大学では柔道部に所属し、短髪でジャージーが似合う体育会系。考え込みながら小声で話した。
 見知らぬ同士の気兼ねからか、ワーカーたちの会話はまだよそよそしい。そんな中で、北村慎一(20)=岐阜県羽島市、岐阜聖徳学園大学教育学部三年=だけは不自然なほど元気で、周りの空気を無視した振る舞いが目につく。どこか無理しているようにも見える。
 北村が本来の姿を現すのはキャンプも後半に入ってからだ。さまざまな若者たちが初めての場所で初めての体験に乗り出した。
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 八月二十二−三十一日、太陽と緑の会リサイクルで開かれた「リサイクル&共生の村体験ワークキャンプIN徳島」(日本青年奉仕協会主催)に、県外の若者9人が参加した。悩みを抱えたフリーター、将来のヒントをつかもうとする学生・・。求めているものは見つかるのか。障害のあるメンバーたちと、若者たちとの十日間を追った。
記事 報道部 木下一夫
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