放置されたり、家庭で使われなくなったりしたものなど、福祉共働作業所「太陽と緑の会リサイクル」に持ち込まれる自転車は年間約二千台に上る。そのまま使えるものは少なく、数台の部品を持ち寄り一台に組み上げ直すことも多い。
 結局、店頭に並ぶのは七百台余り。残りは使える部品を外した後、金属のリサイクル業者に納入されるが、サドルやタイヤなどはあらかじめ取り外さなければならない。鉄類は一キロ五十銭。労働時間を金銭だけで判断すれば、時間をかければかけるだけ損をすることになる。

 ◆隠せぬ戸惑い

 大小さまざまなボルトやネジで作られた自転車の解体には数種類の工具が必要だ。「そこはモンキースパナで」とスタッフの中村毅(25)。「スパナって言われても・・・」。石崎朋美(25)=静岡県三島市、青果会社勤務=は、工具箱にあふれる器具を前に戸惑いを隠せない。
 まず、ブレーキワイヤの取り付け部をレンチで緩めて引き抜く。さびていれば部品として保存する。ネジやブレーキパッド、タイヤも同じだ。プラスチックのかごやライト、タイヤなどの非鉄部品を外して解体は終了。一台につき十数分、マウンテンバイクなど派手な自転車ほど時間がかかる。店頭の七百台はこうした陰の作業に支えられたものだ。
 見かけは良くても、作りの善しあしはネジを一つ回すだけで分かる。ネジ山を一つ回すだけで分かる。ネジ山がすぐつぶれたり、軽くたたくだけでサドルが取れる自転車もある。低価格の自転車が出回っているため、再生品の価格は数千円がやっと。それでも客には「中古なのに高い」と言われることがある。
 作業がリズムに乗ってきた。さびついたボルトとの格闘で、若者たちの顔もゆがむ。が、いったん動き出せば、気が抜けたように表情が崩れる。
 メンバーの岡本福美(48)は農作業から自転車、不要品の回収まで、何でもこなすベテラン。なかなか要領を得ないワーカーの北村慎一(20)を、手取り足取り熱心に指導する。北村が突然「楽しくねえ。オレだったら一年も続かねえよ。よくやってるね」と、岡本に言い放った。一緒に働いていたメンバーやワーカーに気まずい空気が流れる。自転車は岡本の得意分野で「分からないことは何でも彼に聞け」と、スタッフから説明を受けたばかりだったからだ。

 ◆熱心に働く姿

 夜のミーティング終了後、北村は障害のあるメンバーたちに「働いていて楽しい?」と尋ねた。会話をしているというよりも、自問自答しているようだった。「相手に障害があるからといって、自分の気持ちを隠して付き合うのは失礼やと思う。けど、ちょっと無神経やったかな。仕事って何や、ということを考えるのが、キャンプ参加の目的の一つだった」と、後になって北村は語った。
 数日後、再び自転車解体の作業が巡ってきたとき、相変わらずにぎやかだが、熱心に働く北村の姿があった。「何だか楽しいと思えるようにもなってきたよ」。少し気恥ずかしそうに、だれに言うともなく宣言した。
(敬略称)
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