新聞連載記事 >新経済サロン

経済サロン原稿 杉浦良 
「共時性」

 日本のGDP(国内総生産)が中国に追い越され、世界第3位となった。以前から言われていたことだが、今月14日に正式に発表されると、「人口10倍の中国と較べても仕方がない」などと、楽観論やあきらめ的発言などを見聞きするようになった。
 “ジャパン・アズ・ナンバーワン”と声高に叫ばれていた頃との落差に戸惑う。この20年間の低成長を嘆く方も多いが、振り返れば日本は物質的に随分豊かになったものだ。自分の子供時代からすれば隔世の感がある。とはいえ昨今の就職氷河期を目の前にすると、厳しい就活戦線にゆとりなど、どこ吹く風となる。
 13日に吉野川市のアマチュアバンド「カマンベール」がNHKバンドコンテスト・オヤジバトルで優勝した。カマンベールは1998年から毎月、鴨島駅前で行っている「まちかどコンサート」の中心メンバーで構成されている。まちかどコンサートはこの27日で133回を数え、2004年には県まちづくり環境大賞優秀賞を受賞した。音楽だけでなくパフォーマンスやフリーマーケットも行われ、出店料も要らない。老人ホームの駐車場を無料で貸してもらい、肩ひじ張らずに楽しみながら、手弁当で13年目の活動に入ろうとしている。
 「僕の住んでいるこの町は素敵なことがいっぱい/楽しいことはちかくにある/ほらほらそこにある/みんなで何かやりましょう/ときめくことをやりましょう/わくわくの扉開けたら新しい風が吹く」―。彼らのオリジナル曲「わくわくの扉」の歌詞に、この活動の持続の秘訣が隠されている。
 「GDPが世界3位に転落」との発表とほぼ同時期に、 “楽しいことは遠くではなく近くにある”とオヤジバンドが歌って全国優勝した。私はそこに共時性(シンクロニシティ・意味のある偶然の一致)を感じる。 そろそろ本当の豊かさとは何かを考えるステージに日本が突入したのではないだろうか。(良)

新聞連載記事一覧へ戻るトップページへ戻る