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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.27 タイトル「宅急便と福祉」

 元ヤマト運輸社長の小倉昌男さんが六月三十日に亡くなりました。小倉さんとの面識はありませんが、偶然、知り合いの方二人から「小倉昌男経営学」「福祉を変える経営」と題する本を頂き、感銘を受けた記憶がありました。
 宅急便の生みの親である小倉さんは、ヤマト福祉財団を、保有していたヤマト運輸株二百万株(当時の時価総額二十四億円)を投じて一九九三年に設立し、障害者の自立支援に精力を尽くされたわけですが、成功を収めた企業人としてより、人間としていかに生きるかという命題を突きつけられたような感覚に襲われます。
 運送業界の規制緩和を求めて旧運輸省と掛け合い、今では当たり前となった小口輸送のパイオニアとしてその名を轟かせたと思えば、郵便配達を国が独占していることに異を唱えて、メール便を誕生させたその発想に脱帽させられます。
 ともすれば「みんなで渡れば怖くない」「横並び、みんな一緒の悪平等」といった傾向が少なからずある日本ですが、もはや日本一国で成り立つはずもなく、グローバリゼーションが吹き荒れる世の中で、それなりの発想や独創性がこれからの日本を支えていくことになります。
 その意味で小倉さんは一流ですが、注目すべきはその倫理観の高さです。金利を限りなくゼロに近くし、公的資金を導入し再生を図った銀行に対して、国民へのせめてものおわびに、高水準だった全銀行員の給料を二割カットするくらいの姿勢がなくてはならないと説かれます。
 一九九五年に全ての役職を退き、ノーマライゼーションを実行する近道は、月給一万円からの脱却で、公的支援の少ない無認可の作業所も公的支援がきちんとある認可通所授産施設も、障害を持ったメンバー達の給料を上げる努力が足りないと、その経営感覚のなさを指摘されます。
 今すぐできる給料アップの方法として、今月の給料が一万円なら来月は三万円にし、それをどうすればよいかは後で必死に考える、と説く小倉さんを背後で支えるものはいったい何か?
 「人として生きよ!倫理観のない人間は人にあらず!」ふとそんな言葉が浮かびました。惜別。


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