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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.44 「注意書き」 二〇〇六年四月二十六日分

 日ごろ忙しさを理由にかまってやれない後ろめたさから、子供たちを食事に誘いました。お店に入るとメニューにお子様セットなるものがあり、よく見ると、子供の好きな食べ物を注文すると、オモチャがもれなく付いてくるという趣向です。
 食べることと遊ぶことは別々なはずなのに、なぜ一緒にする必然性があるのか?などというお父さんの独り言などどこ吹く風と、子供たちはウエイトレスさんが差し出すオモチャの中から、昔なつかしい「紙風船と吹きもどし」をさっさと手に取り、ご機嫌です。
 昔は薬売りのおっちゃんがオマケに紙風船をくれたんだよ・・と講釈をたれていると、すでに袋から取り出し、ピーと鳴らしたり膨らませたり、忙しいことです。ポイッと捨てられた袋を仕方なく片付けていると「紙風船と吹きもどしのあそびかた」と書かれた注意書きが目に止まりました。
 「口に入れない」「水にぬらさない」「人に向けない」「大人と一緒に遊ぶ」という言葉と絵マーク。その下に、保護者は必ずお読みください、と書かれた注意書きがありました。
 ゆっくり吹くこと、あわてて膨らますと頭がフーウとなるので注意すること、破れた紙ふうせんは口に入れると窒息の危険があること、風のある時は外で遊ばないこと、吹きもどしの先に付いている針金を取り出さないこと、指に巻きつけると血が通わなくなったりして危険なこと、人をついたりたたいたりしないこと、屋外では安全な広いところで遊ぶこと・・などと、読んでいるこちらの頭がフーウとしてしまいます。
 最後に対象年齢三歳以上と締めくくられているわけですが、これほど手取り足取り指導しなければならないのなら、使わないほうがまし、と言って使わせない親も現れるのでは、と勘ぐってしまいます。安全という名の下に、言葉で示された山のようなマニュアルでリスク管理する極致がここにありそうです。
 言葉で理解するより実際試して体で覚える、失敗しながらあれこれ工夫して少々痛い目をしながら学ぶ、といった伝統的な学習形態はどこに行ってしまったのでしょう。
 「そんなこと誰も教えてくれなかったもん・・」と口答えできないよう、注意書きの量はますます増えるのでしょうか。(杉)


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