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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.50 「畑づくり」 二〇〇六年七月二十九日分

 ぼてっと太ったゴーヤや真っ赤にたわんだトマト、そして緑になびくシシトウなど、旬の夏野菜のオンパレードです。
 今から十五年ほど前、機会があって山を開墾することになりました。赤土を掘り起こして石を取り除き、堆肥をこしらえてはすき込むことで畑にするわけです。農業に対して素人だからこそできる勢いの取り組みでしたが、ドミニカ移民問題ならぬ、素人思い込み有機農法開墾事業は困難を極めました。
 全国から若者を二十人募集し、十日間のヘトヘトドロドロ開墾計画は、大変ながらも、充実感と達成感をもたらせてくれました。牛糞や木屑、草や鶏糞、天ぷら廃油などを混ぜて、一年間発酵させた堆肥を、十年間で約二百トン、赤土に混入させました。たった五百坪ほどの畑づくりに、これほどの労力と時間がかかることを知らなかったばかりか、植えても植えて大きくならず、虫に食べられ、ろくな野菜が育たない現実を見せつけられました。
 「虫憎し。されど理念として、農薬使うべからず。野菜太からず。されど化学肥料使うべからず。雑草のみ勢いありき。じっと天をにらむ。」こんな思いを十年も繰り返すうちに、そこそこの野菜が育ち始めます。素人集団が少々コツをつかんだこともありますが、石交じりの赤い土がサラサラとした黒い土に変身し、周りを見渡せば鳥や虫やチョウの存在に気付かされます。生活排水池にはいつの間にかカエルやヤゴがすみつきました。
 相変わらず野菜にはたくさんの虫がいます。しかし土の力が育ってくることで、少々虫に食われても野菜に回復する力が出てきます。そして虫たちを餌とするほかの生き物が集まってきます。その生き物を食べるまた別の生き物の出現があります。生物の食物連鎖が完成することで、ようやく素人集団にもおこぼれをちょうだいすることが可能になりました。
 よくよく考えれば、人間さまが開墾しつくった野菜だ、と威張ってみても、しょせんほかの生き物やお天道さまの協力で成り立つ野菜作り。人間を育てることと、どこか重なります。「ますますスピードが要求される現在、十年百年の年月を経ることで成り立つ出来事を見失ってはいけません・・」畑づくりからの教訓です。(杉)


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