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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.60 タイトル「未来学」

 「未来への提言スペシャル」という、未来学者のアルビン・トフラー氏と評論家の田中直樹氏の対談が新春テレビ番組でありました。「おい、お前たち、 チャラチャラしたお笑い番組ばかり見んと、たまにはこんなのも見んとアカン!」と偉そうに語る兄に対し、「何言っとるの?」と全く動じない妹達とのやり取りの後、内容が難しかったのか、途中で肝心の本人が姿をくらます番狂わせとなりました。
 横で見ていた私は「未来学」という、一万年前に起こった農業革命、十八世紀に起こった産業革命、そして二十五年前から起こり始めた情報革命のそれぞれ新しい潮流が、人類の進む方向を大きく変えてきたといった、人類の行く末を予測する新しい学問の存在を初めて知ることとなりました。その次にどんな潮流がやってくるのか、といった予測を、情報革命という第三の潮流を予言したアルビン・トフラー氏に語ってもらうという企画です。予測は大変難しいと断りを入れながら、時間の流れの速度が速い順に「企業」「NPO」「消費者」と挙げられ、遅いものから「法律」「政治」「行政」「労働組合」などを示されました。それぞれの組織の時間軸のスピードを速度で表し、百キロの企業と十五キロの法律が同時進行することによる社会のひずみが、これから大きな問題となるだろうとの指摘に、思わず引き込まれました。
 「なぜそんな時間の速さといった事を考えるようになったか」との問いに、「大学を出てすぐ、五年間イリノイの工場で働きました。大量生産システムの現場を体験することで、例えば農家の仕事の時間軸とは違うことを肌で感じました。工場では一人の時間の遅れが全体にとって大変な影響を及ぼすことになります。」そんな言葉のやりとりの中に、「未来学」という発想の萌芽があったように感じられました。
 本当の現場を肌で感じることの向こうに、次の新しき未来を見通す鍵が隠されていること、そして現場で五年間働いた後、研究者として活躍できるアメリカの懐の深さを、思わずにはいられませんでした。(杉)


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