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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.76 タイトル「希望の光」

 「『5百円で泊まれる宿があるのになぜ泊まれないの』『あんな小便くさい街は初めてだ』『なぜ仕事がないのか』『病気だとはっきりしているのになぜ病院に行かないのか』『死ぬ寸前なのになぜ助けられないのか』『ヤクザが多くてこわかった』『街の中に小学校があったけど子どもたちは危なくないのか』『道路でバクチをしていてもなぜ警察は黙っているのか』・・・寮生からは次々と疑問が出てきました。そして『臭い』『汚い』『怖い』『気持ち悪い』『不気味』・・これらの言葉は自分たち自身に投げかけられてきた言葉でもあったことに気が付きました」。大阪市西成区にある「喜望の家」の機関紙に書かれた言葉です。
 「喜望の家」は釜ヶ崎と呼ばれる地区で、アルコール依存症の矯正プログラムを行ったり、厳冬期にホームレスの夜回り救援パトロールなどを行っている民間団体です。ここに年一回、静岡県の児童養護施設で生活する児童たちが職員と一緒に体験宿泊ボランティアとして参加した後、これらの言葉は発せられました。
 この児童養護施設では二歳から十八歳までの、ほとんどが親からの虐待を受けた子供たちが生活しています。一番信頼すべき親からの虐待は、子供たちが自分自身を否定的にとらえるだけでなく、「試し行動」と呼ばれる行動につながります。
 職員や他の子供達への虚言や暴言、そして盗みや暴力、リストカットなど、壮絶な嵐の中で、それでも自分の「生」にいや応なく直面するわけです。ギリギリの中でヘトヘトになった施設職員や子供たちに、大阪釜ヶ崎でのボランティア体験が、日常の時空を超えさせます。
 「『人を人として』、喜望の家で何度も耳にする言葉であり、私自身が立ち戻るときに思い起こす言葉です。虐待を加える親たちも決して幸せな人生を送ってきたわけではないのです。そして追いつめられた人が、より弱い立場の人を攻撃するという現実を目の当たりにしています・・」。そう語るこの児童養護施設の施設長さんに、今の日本の閉塞した厳しい現実と、それでもそこに希望の光を見出そうとする意志を感じました。(杉)


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