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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.87 タイトル「遺す言葉」

 「小田実・遺す言葉」を、先日、NHK教育テレビで見ました。作家であり、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)のリーダーだった彼自身の、がんで亡くなるまでのドキュメンタリー番組です。正月にこの番組を見て久しぶりに感動した、といった話を聞いていただけに注目していました。
 「余命を知らされ、残された時間をどう使うか?」といったテーマがそこにあります。限定された時間であるはずの「生」ですが、普通は自分がいつ死ぬかわからないため、やることの優先順位は、普通世間並みになります。
 世間並みでなかった彼が、死までの限られた時間を何に割くか。ベッドで書くことから始まり、それができなくなった後は、言葉を録音し口述筆記となります。休んでは語り、語っては休むその繰り返しの先に、昏睡と死が待ち受けていました。作家だからということもあるでしょうが、今の思いを市民に語らずには死ねなかったのでしょう。
 自分自身の原体験である大阪大空襲で、数多くの死ななくてもよかった死を目の当たりしたことは、ベトナム戦争反対を唱え、阪神大震災後、市民の手による震災被災者支援法成立を訴えることにつながります。今、大きく世の中が変わってしまうのではないか、という危機感から発せられた、山ほどの言葉が私の体に残りました。
 「日本が世界に誇れることの一つは、経済活動の中心に軍需産業がないことだ。平和産業で、世界第二位の経済大国になったことは素晴らしい。もっと日本人はそのことに自信を持っていいはずだ。アメリカはもちろん、ドイツもフランスも軍需産業が中心にある・・」。そんな言葉がよみがえってきました。
 そういえばニュースの職人鳥越俊太郎さんが、イラク戦争の戦費は米議会予算局(CBO)の発表では約二百六十六兆円、実際には約三百九十兆円だと米民主党が指摘していると、一月初めの新聞で書かれていました。気の遠くなるような予算です。
 サブプライムローン問題でも、アメリカは疲弊し始めています。もう一度原点に返れ!アメリカへの警告と、日本への哀惜を、小田さんは最後に伝えたかったのでしょうか。(杉)


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