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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.89 タイトル「空腹を忘れるために」

 「本当に偉いわ。十二歳のお兄ちゃんが、たくさんいる弟妹のために食事を作るんよ。ご飯!お茶!と言うだけで、紙くずをゴミ箱にも入れられん、家とはえらい違いや!」
 先日、新聞の番組欄に「毎日が戦争!?七男四女爆笑ビンボー大家族!・・超元気わんぱく兄弟・・食費は一食八十五円!?・・」と記されていた四国放送テレビの番組の感想です。お父さんがトレーラーの運転手で、当然ながらお母さんは子育てにてんやわんや、子供たちが日常生活をたくましく生きる、千七百日間の記録だそうです。食べることに精いっぱいの時、生きるたくましさが全身からほとばしり、今の日本を照らします。
 この前、ケニヤで活動するNGOモヨ・チルドレンセンターを中心にした、ドキュメンタリー作品「空腹を忘れるために(仮題)」の完成直前のデモ映像を見る機会がありました。
 モヨ・チルドレンセンターを主宰する松下照美さんは、徳島での陶芸活動後、ウガンダやケニヤに渡り、ストリートチルドレンと呼ばれる、路上生活を余儀なくされた子供たちの支援にかかわってきました。その日常や背景をドキュメンタリー映画監督の小林茂氏が追うというものです
 貧困やエイズ、そして都会へのあこがれなど、さまざまな問題で子供たちが路上生活を始めます。食べるために、鉄くずやプラスチックを拾ってお金に換えたり、物ごいをしたりして、その日を過ごします。手に入れた食料を自分たちで調理して、みんなで分け合います。寒さを逃れるため、路上で身を寄せ合っての雑魚寝です。
 寒さや空腹を忘れるためにシンナーを吸って紛らわす子供もいます。そんな日常を淡々と映像は拾っていきます。厳しい現実の前で絶望があたりを包み込み、それを押し破るように子供たちの踊りが始まります。空き缶のドラムが、子供たちの体を震わせ、踊りは夜空に盛り上がります。
 足らないことで子供たちの生きていくエネルギーがほとばしるとしたら、飽食の日本は生きるエネルギーが衰退し、むしろ希望は失われていくというパラドクスが、そこから読み取れました。(杉)


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