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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.94 タイトル「ビワとスイカ」

 「相当まいっていて・・、悔やんでいるようだから、連絡して励ましてあげて・・。」突然のメールが入りました。
 突如訪れた身近な死が、当たり前のように流れ行く日々日常を止め、その存在の大きさにふと気がつくと、そこに長年連れ添った妻はいない。そんな状況なのでしょうか・・。本当にしばらくぶりのやり取りが、愛する奥さんの早すぎる逝去とは・・。人生の不条理を感じる瞬間です。
 何をどう励ましたらいいのか?一瞬私の頭の中で、自問自答が始まりました。ぼんやり窓から外を眺めていると、どんよりとした雨空にビワの実が色鮮やかにたわんでいました。ビワをお悔やみの言葉と一緒に送ろう・・。葉っぱごとハサミで切り取って、ダンボール箱に詰めました。
 「思いがけず、ビワ一箱をお送り下さり誠に有難うございます。実は、家内は生前ビワが大好物で、最後のベッドで口にしたのが、ビワとスイカでした。早速霊前に供えさせていただきました。突然の理不尽な死は人を打ちのめすものだということが良く分りました・・。」とはがきにありました。その裏は、木喰(もくじき)上人(じょうにん)の虚空蔵(こくうぞう)菩薩(ぼさつ)の写真でした。
 「突然の出来事に、とても整理など付かない日々を送られておられる事と存じ上げます。奥様が最後に口にされたのが、ビワとスイカとお知らせいただき、共時性とでもいう言葉が浮かびました。ビワの実るころ、奥さまが召されました。梅雨空に、実を切り取ったビワの枝先から、新芽が出ています。ビワの実は終わり、徳島の市場にはスイカが並び始めました。どうしても避ける事の出来ない死に対して、どうしても召されなくてはならないとするならば、この時期なのか・・、 そんな勝手な考えがよぎりました。次は徳島のスイカをご霊前に送りたいと思います。お元気で。」
 徳島で育ったビワとスイカを送ることが出来る豊かさを、この時感じました。(杉)


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