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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.113 タイトル「ストリートチルドレン」

 七月十一日から徳島市蔵本町の映画館シネアルテで、「チョコラ」が上映されます。
 「チョコラ」とはチョコレートの一種ではありません。「拾う」という意味のスワヒリ語だそうです。撮影場所はケニヤ共和国の地方都市ティカ。画面に登場するのは路上で暮らす子どもたち。それを小林茂監督が丁寧に追いかけます。
 彼らは、いろんな理由で「チョコラ」と呼ばれながら、ストリートチルドレンをやっています。早起きして、空き缶やペットボトルなどを拾い集め、うまくいけばその日の食事にありつけます。ベンチの下ですし詰めになって寝る子ども達の手に、ちびた紙巻タバコやシンナーのボトルが握られています。親がエイズで亡くなり、路上生活を余儀なくさせられた子どもだけではなく、家も両親もある子どももいます。貧困やエイズが生み出したと思われる問題以外にも、ありとあらゆる人間の問題が、実はその底に横たわっているのだと、画面は迫ってきます。
 容赦なく厳しい現実が押しつぶしていく子どもたちを、少しでも何とかならないかと、一人の日本人女性が淡々と寄り添います。物を盗み、うそをつき、物ごいをしながら、仲間たちと助け合い、けんかもする・・。そして、空き缶のドラムを打ち鳴らし、アドリブの歌と踊りで盛り上がる子どもたちが、突き抜けるほど明るく輝きます。掃きだめのように扱われてきたスラムに、一筋の未来と可能性が見え隠れします。
 徳島で陶芸を続けてきた松下照美さんが、パートナーの早すぎる死をきっかけに、次の人生を、アフリカのストリートチルドレンに向けた意味が、そこにあるような気がしました。
 「強きを挫き、弱きを助ける」といった古き良き時代の心持も「強きにおもね、弱きを挫く」と裏返りはじめ、こころがスカスカしてきた時、この映画は、じわっと体全体に染み込んでくるでしょう。ケニヤの真っ青な青空が、褐色の肌、白い歯、まぶしいばかりの笑い声と重なります。(杉)


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