筋ジス治療に曙光
今日までその正体も治療法も全く分からなかった筋ジストロフィにやっと暁光が見えはじめた。まだ手掛りという程度のものではあるが、それをたぐっていけば、きっと治療法にまで行きつき、病気の本態も明らかになるであろうと思われる程有力な手掛りである。その点、今まで時々ぬか喜びに終った治療薬らしいものの報告とは比較にならぬ程頼りになるものである。その概要を紹介しよう。
一九八七年、アメリカのクンケルは、正常な人の筋肉にはあるが、デュセンヌ型筋ジスの筋肉にはない物質を発見し、それをジストロフィンと命名した。当然、筋ジスはこのジストロフィンが欠けているために発病するものと推定される訳である。
それに呼応して日本の精神神経センターにも、ジストロフィンの研究に杉田神経研究所長以下が全力をあげて研究に取り組んでいる旨小沢部長から便りがあった。
クンケルは、筋細胞がジストロフィンを作る時に鋳型となるDNAの一部の構造を明らかにしたが、神経センターの荒畑博士らはそれを用いてジストロフィンの一部分を合成した。次いで、それを抗原として抗体を作り、抗原抗体反応という技術を応用して次のことを証明したのである。即ち、正常な人の筋線維を包む膜にはジストロフィンが含まれているが、筋ジス患者のそれにはジストロフィンが含まれていない、ということである。先に筋ジス患者はジストロフィンがないために発病するのではないかという推測をしたが、それを一歩進めて、筋ジス患者の筋線維の膜にジストロフィンがないというところまで突きとめたのである。以前から筋ジスの筋細胞の膜に欠陥があるということは色々な事実から想像されていたが、荒畑博士らはそれを眼で確認することに成功したのである。
ここまでくれば、あとはジストロフィンを補えば筋ジスの治療ができるのではないかという希望が大きくふくらんでくる。その補い方は色々考えられるが、誰でも考えつくのは次の二つであろう。
第一に、ジストロフィンの注射である。ジストロフィンを正常な筋肉から抽出するか、あるいは、試験管の内で作ることも可能であろう。しかしジストロフィンを注射する方法は、抗原抗体反応という厄介な障害が立ちはだかっているから、成功は仲々むつかしいと思われる。
第二は、ジストロフィンを作る能力のない筋ジス患者の筋細胞の核の中に、ジストロフィンを作るのに必要な鋳型となるDNAを組み込むことである。これも容易な業ではないが、他の分野では既に成功している技術であるから満更見通しがないという訳ではない。その方法が確立されるまでに何年かかるか分からないが、ここまで研究が進展したのは画期的なことである。油田の掘削で云えば油兆があったということであろう。
太陽と緑の会が全国の仲間とともに筋ジス研究所設立運動をはじめたのが一九七一年国会に請願し、田中内閣から必ず作るという約束を取りつけたのが一九七三年、神経センターが完成したのは一九七八年、意外に早い研究の進展と云ってよいだろう。あとは杉田所長以下研究所スタッフの健闘を祈るばかりである。
(近藤整形外科病院長、徳島市富田浜二丁目)
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