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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.51 「屋上庭園」 二〇〇六年八月十四日分

 今年も暑い夏がやってまいりました。夏になると「暑い!」冬になると「寒い!」と騒ぎ立てるのが人の世の常ではありますが、地球温暖化とコンクリート建造物に囲まれる都市環境の板ばさみで、ますます暑さが身に迫るこのごろです。
日本の各都市の一九〇〇年から現在に至る平均気温の推移を表すグラフをたまたま見つけました。年により上下はありますがこの百年で確実に一度―三度は上がっています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「二十一世紀末までに気温が二度、海面が五十センチ上昇する」と予測していますが、日本の過去のデーターにもぞっとしました。
 「地球規模の現象と局地的事情が複合したかつて人類が経験したことのない急激な気温上昇で、最大の要因は緑地の減少など土地利用の変化とコンクリート建造物の増加で地面のもつ夜間の放射冷却が働きにくくなったこと」と気象庁気候情報課の方が指摘されています。
今から三十五年ほど前、徳島で四階建て病院の屋上に土を敷き詰め、庭園として活用した方がいました。木が大きくなるとどこからともなく野鳥がやってきて、そのふんの中の種子が勝手に発芽して大きくなり、適当に植え替えることで様々な植物が育つ見事な庭に生まれ変わりました。
 「屋上から見ると、せっかくの徳島の景観が台無しだ。無味乾燥したビルのコンクリートがむき出し、エアコンの室外機がうなるのは、人類を破滅に導く」。そう語った風変わりな医者の言葉が、長い時を経てよみがえりました。当時は奇人変人に分類されただろうその言葉は、東京でビルの屋上利用のモデルケースとなり、環境に優しい補助事業対象として取り上げられるようになりました。
「環境」「景観」「自然保護」「地球温暖化対策」など、今まで「都市化近代化」「地域開発」「所得倍増」といった言葉にかき消されてきたテーマは、現在の重要な問題になりました。
 この風変わりな医者の箴言と警句に従って、三十五年前からビルの屋上の緑地化が実行されていたならば、「環境立国日本」として世界から注目されると同時に、無味乾燥したビルは、屋上菜園、庭園、農園、バードウォチングなど、憩いのオアシスとして人々に親しまれ、潤いをもたらす存在に変身できたかもしれません。(杉)


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