徳島新聞「ぞめき」原稿 杉浦良
No.59 「機関紙」 二〇〇六年十二月十九日分
今から二十年近く前、大阪西成区萩之茶屋にある『出会いの家』や『喜望の家』という存在を知りました。季節労働者の町・釜ヶ崎で、高齢者のホームレスの方々への食事や宿泊支援、アルコール依存症対策などをされています。
釜ヶ崎といえば、大阪万国博覧会のために集まった建設労働者が、そのままそこで暮らすようになって、現在に至っているといわれていますが、日雇い労働(一日働くと一日分の給料が支給される)に従事する方は、ドヤと呼ばれる素泊まりで宿泊し、朝四時ごろからその日の仕事を探すことで生活が成り立ちます。唯一の楽しみが飲酒という方も多く、アルコール依存症は、釜ヶ崎の生活習慣病とまで言われています。派遣労働、請負労働など労働の在り方が多様化したことや、公共工事の削減や機械化により、釜ヶ崎の仕事量が年々減っていると聞きます。
高齢で体格が貧弱、顔色の悪い方は、ほとんどその日の仕事にあぶれ、ドヤに泊まれずホームレス生活を余儀なくされます。生きるために、アルミ缶や段ボールを集め、それがインスタントラーメンや餅に替わり、その日の糧となるわけです。住所が定まらないために、なかなか生活保護が受けられません。アルミ缶や段ボールがたくさん集められなくなったときは、食事を減らします。
路上生活はなかなか熟睡できません。ますます仕事から遠くなり、衰弱して、最後は路上での死につながります。
喜望の家の機関誌「きぼう」十一月号に、大阪市内での行路死者(行き倒れなどで身元の分らない方)が年々増え続け、千二百十三人になったとありました(ちなみに八年前は六百九十人)。
華やかな世界に目を向ければアッと驚くことばかりですが、少し目線を変えれば、新聞記事にもならないそんな現実がこの日本に横たわっています。それを少しだけでも何とかできないか?そんな「人間の思い」がそれぞれの団体の機関紙から読み取れました。(杉)
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