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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.83 タイトル「インクルージョン」

 ナチスドイツの総統だったアドルフ・ヒトラーが、第三帝国建設という野望のため、ユダヤ人の大量虐殺を実行したのは周知の事実です。ただその前に障がい者への暴虐を行ったことは意外と知られていません。第三帝国を担うゲルマン民族の優秀な血筋の青年男女から、将来の優秀な血族を生み出すという野蛮な計画もなされました。そのためにヒトラーは第三帝国から障がい者を排除したわけです。
 そんな歴史とは逆の発想がインクルージョン(統合教育)に見られます。デコボコがあり凹凸があることで社会が成り立っており、老若男女、健常者も障がい者もそれぞれがそれぞれこの社会での存在意義があり、その存在価値をそれぞれ発揮することで、この世はバランス良くうまく回って、社会全体としては強く、安定しているという考え方です。
 ここで大事なことは、社会を構成している老若男女、健常者、障がい者が、分けられてそれぞれかたまっているのではなく、まんべんなく社会の中で暮らしていることです。分けてかためて効率よく専門的に対応すれば、本人も社会にとってもベターだという発想は、社会を平板に青写真的にとらえがちになり、社会総体のバランスはむしろ悪くなりやすいわけです。
 昨年暮れの徳島新聞の記事に、重度心身障害児として県内で初めて地元の小、中学校に入学した生徒さんとそのお母さんの体験記が、NHK障害福祉賞の最優秀作品に選ばれたとありました。「受賞は支えてくれた地域のおかげ」とお母さんの言葉が添えられていましたが、小、中学校の先生方や同じクラスの生徒たち、そしてその親たちも含め、多分それまでの山あり谷あり峠ありの道のりは、人が生きていくうえでのさまざまなテーマを、山のように提供してきたのではと思います。
 人権教育を教室で何百回行うことより、この親子二人の存在そのものが、人権を問いかける大きな存在となるだけでなく、いずれ社会全体の安心や安定を強めることにつながるはずです。それは将来、地域にお返しすることになるだろう大切な意義だと感じました。(杉)


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