ワークキャンプ最後の課題はリポート作成。意見をまとめるためにミーティングが開かれ、ワーカーたちは自分の体験や感じたことを討議した。すぐには言葉にならず、若者たちはもどかしそうに話した。
熊倉匡志(22)は、疲れてのろのろ歩きながら作業場所を移動していたら、メンバーに走って抜かれたことを思い出し、「出し惜しみしないで頑張る。すっかり忘れていたことだった」と言った。
スタッフからワークキャンプのキーマンと注目された北村慎一(20)は、家具を運んだ際、何度も立ち止まるメンバーに腹をたて、気づかない振りをして無理に引っ張ったことがあった。「能率とか効率とか、自分の価値観を見直す必要があったのではないか」と反省し、「障害のあるなしにかかわらず、幸せになれる生き方があるはず。心の中に種がまかれた」と強調する。
松尾奈央子(20)は保母を目指し、入学した短大を辞め「何をしたいのか分からず、ぶらぶらしてました」と自ちょう気味に話したことがあった。「汗をたくさんかいたけど、終われば気持ちいい。性格や欠点を見直すことができた。何かをしなければ、と自分をせきたてる必要はないんだ」

 ◆障害意識し行動


体験を整理しようと立ったり寝そべったり、せわしなく動いていた熊倉が「ホント、行動することで人生は変わるよね。就職を目前にして焦っていたけど、吹っ切れたよ」と相づちを打つようにつぶやく。
「太陽と緑の会リサイクル」のメンバーの障害は一様ではなかった。ある人が直面した困難を、別のメンバーがカバーする。石崎朋美(25)は「いろんな人が支え会って生きている。こういうのを共生というのだろうか」。「障害をものすごく意識して行動する部分があった。障害を一つの個性と考えれば、もっと自然に付き合えたかもしれない」とは太田歩(22)。
吉田太郎(19)は「みんなで過ごしたことを、単なる思い出にしてほしくない。決して当たり前の経験をしたわけではない。リサイクルも福祉も課題は山積。数え切れない問題を気づかせてもらえたことに感謝できたらと思います」と呼び掛けた。

 ◆すっきりしない

用事があって最終日を待たずに東京、横浜にそれぞれ戻り、ミーティングに出られなかった池田邦央(23)と市川智香子(24)。「環境問題は年々深刻になっていて怖い。月の宮の日々は、どこか安心できる感じでした。土のある生活が理想です」と言い残し、徳島を離れた。
「いろんなことを学んだが、実際のところ、はっきりすっきりというわけではない。体験を消化したい」と心境を語る樋口敦子(19)。「個性を大切にする?うーん、協力する?うーん・・・」。しっくりくる言葉が見つからず、腕立て伏せをする熊倉。丸刈りにしたばかりで青々とした頭が上へ下へ。「人生はバンジージャンプ。勇気を出して飛ぶことだ」。北村が叫んだ。「いい言葉だね」と樋口が言った。

                =おわり   (敬称略、この連載は報道部・木下一夫が担当しました)
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