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 「ワークキャンプ、一緒にやりませんか」。社団法人・日本青年奉仕協会(JYVA)の増子健さんよりお話がありました。今から十一年前のことです。
 昨年八月二十一日から三十日までの十日間、徳島市入田町月の宮で、第九回ワークキャンプを実施しました。全国各地からやってきた若者二十三人(うち高校生三人)と、JYVAの活動プログラム・アジアボランティア交流計画で活躍中のマレーシアの女性、国際教育交換協議会(カウンシル)を通じて参加したアメリカ、イギリス、フランスの女性と男性、それに当作業所のメンバーとスタッフ、地元のボランティア、ワークキャンプOBなどが加わり、総勢七十人を超える国際色豊かな大所帯になりました。
 真夏の暑い盛りに、草刈りやたい肥づくり、石拾い、うねづくり、種まき、放置自転車のリサイクル、玉ネギ小屋造りなどの作業をするとともに、「自然環境システム」を導入した共同生活を体験するというものです。
 夜は地元のボランティアの方々によるトークや映画会、グループディスカッション、お別れパーティーなどがあり、期間中の一日はリフレッシュデーとして、鮎喰川でのバーベキューや水遊び、神山温泉での入浴など、ちょっとした非日常体験もあります。
 「あのー、サビが付いてしまったんですけど。このご飯捨てていいでしょうか」。関東から参加した二十歳と二十一歳の女性が尋ねてきました。
 「ご飯は鶏が喜んで食べるから、野菜くずと一緒に『ニワトリ行き』と書いてある容器に入れてください。ちょっと待って・・・、サビがどうしてご飯に付くの」。見ると、おかまで炊いたご飯の底の"おこげ"のことでした。
 「ここが香ばしくて一番おいしいんだ。これをおにぎりにすると・・・」という説明も、あっけに取られて忘れてしまうほどのカルチャーショックを受け、「最近の炊飯ジャーは、底の焦げ目もつかないほど優秀やからなあ」と一人ぶつぶつと納得するしかありません。
 かまどを見るのも使うのも初めて。オカマといえば、クスクス笑い出してしまう彼女たちの現実に、自分自身の中にさえ薄くなりつつあるこの生活体験の意味を、あらためて考えさせられました。
 テレビも携帯電話も、ましてやインターネットなど論外の世界である、このワークキャンプに参加した彼らが「こんなに汗をかいたのは生まれて初めてです。汗をかくのって気持ちがいいんですね。嫌なものだと思っていました」「一人で寝るのが当たり前だったので、みんなと一緒に寝るのって不安でした。でもやってみるといいものですね」という言葉を残してこの月の宮を去っていくとき、「今」を取り巻く「光と影」が私の前に映し出されます。
 「まさか、みんなのウンコやオシッコをくみ出すことになるとは・・・」と、好気性バクテリアで分解されたふん尿を、ワーワー言いながら畑にまいている若者を眺めながら、「今を生きること」の難しさを思わずにはいられません。
(徳島市入田町月の宮)
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