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 ワークキャンプ参加者の中に、まだあどけなさが残る一人の女性がいました。中国地方からやってきた中学二年生で、表情の端々に何となく気がかりな色合いが感じられます。
 「ワークキャンプのこと、だれから聞いたのかい」
 「いや・・・、まあ、お母さんから勧められて・・・」
 「本当はあまり乗り気じゃなかったんじゃないの」
 「まあネ、よく分かるじゃん」
 名西郡神山町下分の方からいただいた杉の間伐材を利用して、月の宮作業所の一角に、いろり小屋を造ろうという計画が持ち上がりました。六年ほど前のことです。「こまいころは、イロリでイモあぶってよう食ったわ。うまかったわ。また食いたいもんじゃのう」という知的ハンディのあるメンバーの一言が、スタッフやボランティアの心を揺さぶり、いつの間にか見失った日本の田舎?を取り戻そうと、みんなの遊び心がうずきました。
 ある工務店の社長さんの陣頭指揮のもと、プロの大工さんと素人集団のコンビで、いろり小屋造りは始まりました。毎年少しずつ作業は進められ、今回のワークキャンプでも北側の壁造りがメニューの一つになりました。
 カマで草を刈ること、砥(と)石でカマを研ぐことを体験してもらった後、カマで杉の丸太の皮むきをしてもらいました。チェーンソーで丸太を切り、加工した後、木づちを使って柱と柱の間に入れ込みます。真夏だけに、麦わら帽子の下のタオルから滴る汗が揺らいで見えます。
 「暑くてダルイわ。もう限界」とヒイヒイ言いながら、「こんなしんどいとは思わんかったわ。ああ来るんじゃなかった」と愚痴るうちに、心のしこりがポロリとはがれていきます。
 「ワークに参加するということで、しょうがなく髪の毛、染め直させられたな。学校ではツッパてたんじゃないの。ひょっとして彼氏は、あんたの中学校で番長でもやってるんと違うん」
 「え、どうしてそんなことまで分かるん」
 「そりゃー、おっちゃんもいろいろ勉強してきたからなあ」
 「勉強してそんなことが分かるん」
 丸太にまたがり、汗の滴り落ちる杉の皮をむきながらの会話が、炎天の青空にキーンと吸い込まれていきます。細かいことへのせんさくを、この場の雰囲気が思いとどまらせることで、気が付くとあどけない一人の少女の表情がそこにありました。
 「ここでは、たばこ吸わんといてよ」という言葉にうなずきながら、たくさんのお兄さん、お姉さん、おっちゃんに囲まれて、キャアキャア言いながら記念写真を撮る彼女がまぶしく輝きます。
 参加者申込書に添えられた、お母さんの手紙が思い起こされます。「私は障害者です。もっと大変な中でやっている人たちがいることを、娘は知りません。このワークキャンプで、それを学んでほしいと思います」。
 お母さんの希望に沿えたとは思えませんが、半年ほどして顔を見せてくれた彼女の表情が、和らいでいるような気がしました。
 「彼とは別れたヨ」。そう帰り際に、ポツンと言い残して、再び月の宮を後にしていきました。
(徳島市入田町月の宮)
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