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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.5 タイトル 「研磨効果」

 以前、ある福祉施設の園長先生が「職員全員が聖職者であれ、などとは最初から考えていないが、少なくとも半分くらいは本当に福祉をやりたいものだと思っていた。しかし、三分の一もいないんだよ、実際は・・」と自嘲気味にそっと告げられました。私はこの言葉を聞きながら、ここ三十年ほどの福祉の移り変わりの中に、一つの理由を探ります。
 「こんな劣悪な労働条件では質の高い福祉職員など育つはずがない。給与体系及び労働条件の向上こそが職員の定着率を高め、福祉の質の向上につながる・・。」そう語られ続けた日本の悲しい現実がありました。この三十年ほどで随分改善されてきましたが、教師や公務員の方々と比べると、まだまだ厳しいと語られる現実もあります。そうした歴史の中で、長続きできにくい仕事の一つであった福祉職が長続きできる福祉職に変わりました。じっくり腰をすえて、ライフワークとしての『福祉』の取り組みが出来るようになりました。職員確保に苦労した三十年ほど前の状況は一転し、むしろ狭き門としての「福祉」がそこにあります。
 「言い方は悪いけれど、変わり者でなければあえて条件の厳しいところを選ばないよ・・」そう語らせた昔は、過去の遺物となりつつあります。やってもやっても報われない現実は「なぜこの仕事を選んだのか?」という突きつけにつながり、その根拠が薄らげば、この仕事を続けることが難しくなります。繰り返し続く問いに、気がつくとやはり「福祉」をやりたい自分に出会うことになります。多分「教育」も「公務」も同じことのように思えてなりません。
 あまりに厳しい条件では、持続自体が成り立たないということを前提に、「仕事の割には、報われない仕事」であるということは、本当に「福祉」をやりたい人を磨きだす研磨効果に富んでいるのではと、ひとり勝手に思っております。(杉)


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