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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.47 「職人魂」 二〇〇六年六月十三日分

 とくしま環境県民会議、環境首都づくり講演会が、六月一日、プリンスホテルで開催されました。講師の善養寺幸子さんはオーガニックテーブルの代表で「ちょっと考えてみませんか、住まいのECO」と題して話されました。建物の住環境を環境工学的アプローチで考え直すという、私にとっては新鮮な切り口で、環境共生住宅づくりを提案されました。
 人類の存亡にもかかわる地球温暖化に歯止めをかけるには、拡大し続ける日常生活に伴うエネルギー消費の抑制をどうするか、という問題に直面します。生活の質を落とさず、快適な生活を送りながらも、エネルギー消費を抑えるには、太陽光発電や燃料電池といった環境技術の向上だけではなく、むしろ家のクオリティーをどう高めるかを考える必要があると説かれます。
 「今話題の一級建築士ですが、まじめに取り組んでいる人間も多いので・・」と前置きしながら、夏は涼しく冬暖かい住環境を「遮熱」「断熱」「輻射熱」「熱伝導率」といったキーワードで、エネルギー消費量を削減する取り組みを紹介されました。少々大げさに言えば、太陽の光をさえぎったり、反射させたりする、外や内の熱を伝わり難くするといった問題と、人間が暑いと感じる感覚は温度や湿度だけで左右されないという事実を、住居の歴史をひもときながら、人間の知恵がどう解決してきたか?壮大なテーマがそこに潜んでいるわけです。
 かつて白壁で造られた蔵は、屋根と建物の間に隙間をつくり、太陽からの熱を断ち、厚い土壁や窓を無くすことで外気を遮断して、蔵内の品物をしっかり保存するように考えられていました。火災や地震、そして盗難といったセキュリティーの側面から生まれたと考えるのが、むしろ一般的であるのですが、地球温暖化という人間自身の営みから生まれる、深刻な負の側面に対して、日本の伝統的な建築経験から生まれた知恵で解決の糸口を見出すという現実アプローチを示され、今の科学技術の専門的偏狭性を見る思いがしました。
 「今の建築士は、意外とこの環境工学的な視点を持ち合わせていない。クオリティーが低いから冬場の脳卒中も多いし、無駄なエネルギーもたくさん使う」そう指摘する善養寺さんに、少々偏屈な職人魂を感じたのは私の偏った思い込みでしょうか。(杉)


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