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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.46 「ピアカウンセリング」 二〇〇六年五月三十日分

 半年を越える入院生活を送られ、その後復帰された方と雑談する機会がありました。 「最初は生きて戻れんのでは・・と思ったんよ。その次は、このままベッドに寝たっきりで、一生動けんのでは・・と不安でしかたなかったな。車いすに乗れたときは、自分で動けることがうれしくてねえ・・。歩行訓練に入り、松葉づえ頼りに動けるようになったときは、ひょっとして歩けるようになるかもと、無理してしかられた・・。焦ったら関節や骨に負担が掛かって元も子もなくなるって・・。体重も五、六キロ太って、オッパイ膨れてビックリしたけど、松葉づえ使って筋肉ついたんやな・・。」以前よりふっくらとした顔つきに笑顔が見えました。
 奇跡的に助かったこと、命があったことで、人生観が変わったと話されました。病院に半年もいると、両手切断、両足切断など、厳しい試練にさらされる方々の存在を間近にします。そのまま命を落とされる方もあると聞きます。
 「いろんなこと考えるんよ・・。山ほど時間があるけんな・・。しょうもないこと考えて、気持ちが暗くなって、うつになるんよ。しかし、みんな明るいな・・。両手なくて、両足なくても・・。はたから見たらつらいと思うけど、居直らんと生きていけんしな・・。そんな中にいると、指の一本や二本、なくても、どうってことないような気になるのは不思議やな・・。そう思えると、何か気持ちが軽くなって、前向きになれるんよ。今までの、どうしようもない、暗ーい心が晴れるん・・。どういうわけか、生きていることが幸せに感じるんよ・・。今までそんなん感じたことなかったわ・・。生きているだけでありがたい、死んだら元も子もないって思うようになったな・・。」
何度か話された言葉をつなぎ合わせると、こんなストーリーが展開されます。まさしくピアカウンセリングがそこに展開されているわけです。知らず知らずに関係が成り立つ患者さん同士のコミュニケーションの中に、お互いを癒し、お互いをいたわり、お互いを鼓舞し、息を吹き込む治療空間が存在している事の不思議さを、あらためて発見させていただきました。
 いい加減な専門家がかかわるより、こちらの方がはるかに効果があることは言うまでもありません。(杉)


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