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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.110 タイトル「障害者市民ものがたり」

 障害者問題総合誌「そよ風のように街を出よう」の編集長である、河野秀忠(かわのひでただ)さんの話を聞きました。昨年の十一月十一日に徳島市籠屋町商店街にリニューアルオープンした、精神障害者の暮らしを支援する喫茶店「あっぷる」の記念講演会でのことです。
 昭和十七年生まれの河野さんは、若い頃から障害者運動に関わり、現在、豊能障害者労働センターの代表や、中学校卒業でも教えられると、大学で人権についての講義もされています。小柄で丸刈りの河野さんの話を聞くうちに、何かえたいの知れないエネルギーを感じました。私事ですが、六十七歳で父親は枯れるように死んで行きました。今年六十七歳になる、河野さんの言葉の裏には、何か極度に凝縮された人生のドラマがあるのでしょう。
 講演後、著書「障害者市民ものがたりーもう一つの現代史」(NHK出版)を買い求めました。そこには「さようならCP」(原一男監督・撮影一九七二年)という、脳性まひ者の団体である「青い芝」の活動をとらえた十六ミリモノクロ映画と出会い、上映運動に明け暮れた若き日々の独白が、プロローグとして書かれていました。家や収容施設から重度障害者といわれるひとたちが飛び出し、自立や解放を求めた一九七〇年代を、河野さんが師匠と仰いだ横塚晃一さん(前日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会総連合会会長)はじめ松本孝信さん(前全国青い芝事務局長)といった、さまざまな障害者市民を織り交ぜながら描いています。
 河野さん独特の言い回しもあるでしょうが、一緒に運動を通して、喜怒哀楽を共有した実体験が、二二二ページの新書に所狭しと収められている点が、ほかの福祉関連の書物とは大きく違います。十代後半から六十代にいたる激動の人生を、あえて赤裸々に書きとめ、わたしの現代史として公表する事で、自分自身に「奮起せよ」と叱咤激励する姿勢は見事です。
 齢を重ねれば重ねるほど、河野さんのような大活動家は「若者よ、奮起せよ」とほざいてしまいがちになるのが、世の常です。ご一読あれ。(杉)


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