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 中学校を出てから大阪のバッテリー処理会社に勤め、そこから独り立ちしたS商店の親方は、倉庫を一つ借り、古いバッテリーの引き取り専門でこの世界に入りました。価格が低迷し、古いバッテリー専門では成り立って行かなったとき、鉄以外の金属くずを扱うようになったと聞きました。
 「最初はだれも教えてくれんし、右も左もわからんよって、苦労したわ」。そう言っただけで詳しいことは何も話さず、黙々と選別くずを分別していました。
 不燃ごみ処理場で、手作業により選別された鉄以外の金属類、水道の蛇口やステンレスのなべかま、ナイフやフォーク、真ちゅうの仏具やライター、銅製のなべや被覆線(ビニールや布で覆ってある銅線)、アルミのなべかまや金属バット、亜鉛の合金で造られた優勝カップ、スズ合金の食器など、日常生活から捨てられたごみがトラックの荷台に山積みされていました。
 選別くずと呼んでいたのはこのことで、独特のごみのにおいが鼻につきます。銅、真ちゅう、アルミ、ステンレス、亜鉛合金、鉛、スズといった金属別に解体、選別し、銅、真ちゅう、アルミなどはその素材や純度によって何種類にも分別されます。
 銅であれば、1号銅線(ピカ線)、2号銅線、上銅、並銅、下銅、かま(瞬間湯沸かし器の燃焼がま)というふうに七種類にも分けられます。当然、種類別にキロ当たりの価格が変わり、この分別がきちんとできているかどうかによって、銅の買い取り業者に対する信用度が決まります。このような見立てができるようになるには最低五年、一人前には十年かかる、というのがこの道の言い伝えで、それはそれで大変な苦労があります。
 「ごみの山に銭がう漏れとるんや。そう思うたら臭いことあらへん」。そう言いながら、てきぱきと分別する親方の横で、「分別済みの銅も買うてますけど、そんなに利が取れしませんやろ。臭いけど選別くずの方が利がええんですわ」。そう説明してくれる奥さんがありました。
 被覆線やモーターのコイル、銅のなべかまなどの選別くずは、いったん買い取り業者に持ち込まれ、金属別に分別されます。それをS商店が買うわけですが、分別済みの銅は、手間の分だけ取引価格が高くなるというわけです。このため、選別くずのままで仕入れ、親方自身が分別しているのです。
 「なかなか楽できしませんわ。本当はもうちょっと違った仕事を、と思うときもありますけど・・・。あの人が始めた仕事やさかい、やらんといけしませんやろ」
 今まで私が知らなかった世界が日々動いていることで、この「日常」が成り立っていると思えてなりません。「非鉄金属商」の親方の元で、知的障害者の人たちの面倒を見ながら一緒に働かせていただくうちに、ふと周りを見回すと、そこには同和地区の方々や在日朝鮮の方々、そして明らかに知的障害者や精神障害と思われる人たちの存在がありました。
 いろいろな意味で差別されてきた人たちが、生きてこられたこの世界の懐の広さと、この世界が「リサイクル」という意味を、別の角度で支えてきた事実を初めて知りました。
(徳島市入田町月の宮)
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