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 「アルミと銅と真ちゅう、ステンもあるさかいな、高うにこうてくれや」。そう言ってYさんが、トラックの荷台からひしゃげたアルミサッシや水道の蛇口、焦げた銅線、すすけた流し台のシンクを放り投げました。「Yがきよった。怖いでー、ほんま怖いわ」。知的ハンディのあるAさんが、ワーワーと私を呼びに来ました。
 「こら、わしは客やで。お客に向かって『怖いわ』ってところがどこにある。ここの人間は教育ができとらんわ」
 「まあ、そう怒らんといてください。本人も悪気があって言ったことと違いますから」
 「悪気があって言われてたまるかいな。許したるさかい、ちょっと色つけてんか」
 「色と言われても親方に聞かんと分かりませんから、それは勘弁してください」
 「お前もここの番頭やろ。腹巻きに百万円の束放り込んで、買い取りに行っとるという話やないか。それぐらいのことできんでどないする」
 「腹巻きと違って、ウエストバッグと言ってください。番頭や言われても、取引の値は親方が決めますから」
 「お前も理屈をこねるヤツやな。その辺を融通利かせるのが番頭の役目とちゃうか」
 「融通と言われても、どう融通利かせていいか、親方に聞いてみんことには」
 「あほらしくなってくるわ。もうええわ。さっさと計らんかいな。ほんま融通の利かんやっちゃ」
 「このアルミサッシは、取っ手の部分を外してもらわんと、アルミとして計れませんけど」
 「うるさいやっちゃな、ほならお前が外して計れや」
 「いや、そういう訳にはいきません。それに外し方が分からんのですわ」
 「そしたら、なんぼで買うんや」
 「アルミの値段の五分の一ってとこですか」
 「持ってけ、ドロボー」。そう捨てぜりふを吐き、そそくさとお金を受け取ると、Yさんはトラックを走らせました。
 「火事いったところの片づけ仕事や。家の解体の後片づけさせてもろうて、駄賃にいろいろもろうてくるんや。口は悪いけど勘弁してな」。そう親方がつぶやきました。
 前の道で、乳母車の荷台を外した荷車を、えびのように背を丸めたおばあさんが押していました。
 段ボールを差し出す私に、「アリガト、アリガト」と、ちょこんとお辞儀をされました。その横を、軽トラックに古バッテリーを満載したMさんがやって来ました。「よ・ようけ・・・バ・バッテリー、も・もって・き・きたさかい。た・高う・こ・こうてや」
 「今日はようけ、詰め込みはりましたなあ」。親方が言うと、「そ・その・と・ときどきに・よ・よって・い・いろいろやなあ」
 「詰め込むゆうて、何が詰まるんや。ウンコでも詰まるんか」。知的ハンディのあるAさんが加わります。
 「あ・あほ・ぬ・ぬかせ」
 「すんません。あんたは横からしょうもない口を挟まないように」と私が謝ります。
 「ばあさんが、こけよったわ」。親方の声が表通りから聞こえます。「ばあさん、ばあさん、大丈夫か」と親方が抱き起こしました。「アリガト、アリガト」。そう繰り返し、また、しがみつくように段ボールを乗せた荷車を押し始めました。
 「アリガト、アリガト」という言葉のイントネーションにハングルの香りが感じられました。ほこりっぽい風に乗って鼻につく刺激臭が漂い、どこからともなくうなるような機械音が重く響きます。
 この大阪・西淀川の一角での体験が、「福祉」の世界で疲れた私をやんわり包み込んで、いつしか自分を深いところで支えてくれていることに気が付きました。
(徳島市入田町月の宮)
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