新聞連載記事 >ぞめき

No.3 「裏蓋考」   杉浦 良

 リサイクルのボランティア活動をしていて思うことです。
 「あの~、保証期間は過ぎたのですがちょっと見てくれますか?」韓国製Wラジカセが修理コーナーに置かれていました。「ボリュームのバリバリする音は直りますが、左のカセットデッキは難しいかもしれません。ただ裏蓋を開けてみないことには分りませんが・・・」
 二十年も電化製品の裏蓋を開けていると年ごとに嫌気がさすことが多くなってきました。軽く値段も安くなったのは良いとしても、つくりがちゃちになり、修理というよりユニット交換(たとえばカセットデッキ部分を一式入れ替える)で、そのユニットが手に入らなければ廃棄処分となる製品が増えてきました。素材は木や金属からプラスチックや樹脂製品に、部品のとめ方もネジとめから、カシメや指し込み式に変わり、組み立て効率を高めると同時に、修理という概念が感じられない設計思想を見つけたりします。
 「残念ながら、左のカセットはフレームに歪みがあり修理するとすればユニット全部を交換することになります。ユニットが手に入れば簡単に直りますが、入手困難と思われます。ただ右のカセットデッキのドライブベルトはたるみの少ないものと交換しましたのでまだ使えます。」こんなやり取りをしながら、右のカセットとラジオは、もう一度ご主人様の下で活躍することになりました。
極限まで削ぎ落とされた鉄フレームとプラスティックギヤは、多少乱暴にボタンを押すことでゆがみが出そうです。重厚長大から軽薄短小へ製品が移り変わることで、新しい可能性が生まれたことは確かでしょうが、耐久性という視点や、故障しても修理すれば何度も繰り返し使える再使用の可能性という観点は、この三十年程の激しい時代変化にかき消されたように思えます。このことが「物」に関してだけでなく「人」に対しても大きな影響を及ぼしていると思えてなりません。「物」と「人」はやはりどこかでつながっていると、今日この頃の出来事が実証しているようです。(杉)


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