徳島新聞「ぞめき」原稿 杉浦良
No.12 タイトル「ドクサからの解放」
成田真由美さんが水泳で三回パラリンピックに出場し、十五個の金メダルを獲得したというニュースが話題になりました。車いすを利用する成田さんが、上半身のみでダイナミックに泳ぐ姿が印象的でしたが、それを支える福本寿夫コーチの「どこのスイミングスクールに行っても断られた成田さんを、取りあえず可能なら受け入れてみようと思った」という言葉が心に残りました。
福元さんは中学校では水泳選手として、高校から自分の限界を感じ水球に転向されたそうですが、医者から泳ぐことを禁止されながらも薬を片手に泳ぎ続けた成田さんを、山のようなリスクを背負いながらあえて受け入れる決断を下したその奥を、のぞいて見たいと思いました。
先日第五十九回県美術展で七年ぶり二度目の特別賞を受賞した丸居哲雄さんは、木片の寄せ張りで、顔や手足にアザのある阿波踊りの踊り子を描き出し、栄誉を獲得しました。車椅子に座りまひの残る右手もうまく使いながら、三十六歳から十七年間、寄せ張りを出品し続けておられます。
「アザのある人」と題し「人間が抱える息苦しさや人生の重さをにじみ出させたい。阿波踊りは華やかですが、人生の重荷を背負いながら踊っているんじゃないか」。そう語る彼の人生哲学ものぞいてみたくなりました。
この前、やまびこコンサートの実行委員を長年務めている米田太さんが自作の詩を朗読したCD「翔元」を製作しました。「作業所の仲間が疲れきっていた三月、どうにか仲間を元気付けようと考えた。自分のできる範囲のことをやってみようと思った。元気のない人にも聴いてほしい!」。
そう語る脳性まひで言語障害を持つ彼のもとに、小松島中学校の先生と生徒たちからCDの感想が寄せられました。「じわーと温かい気持ちが戻ってきて感動した。落ち込んでいるときに励みになると思う。」その感想文の束を差し出す米田さんの横顔に威厳すら感じさせられました。
ソクラテスは「ドクサ(今までそう信じてきたこと、常識)からの解放」こそ哲学の根本だと言われたそうですが、さまざまなハンディーを持った方々から、あらためてそう感じさせられた瞬間です。
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