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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.67 タイトル「お母さんの独り言」

 「子供さんは何人ですか?三人ですか・・。私なんか一人で手いっぱいですわ。その一人に三人分手がかかりましたけどな。中途半端なハンディーが一番大変ですな。重いハンディーを抱えた子供さんのお母さんから、あんたとこはよろしいな・・なんて言われたりしましたけど、動けない方が・・と私はよく思ったもんです。分っているようで分っておらんのです。ちょっと話したら普通のように思うんですが、それがクセもんですな。自分も一人前にエエ格好がしたいんですわ。ちょっとお金持ったら、おごってやるんでしょうか、あっという間にスッテッテンですわ。外に出て行ったら何か悪い事せえへんかと、心配で心配で・・。そやけど家の中にくくりつけておくわけにはいけしませんやろ。しかしほんまに縄でくくりつけたろかと、よう思いましたわ。テレビで一家団欒の家族を見ると、うちだけなんで違うんやろかと、何か悲しゅうなってな、涙が出てくるんですわ・・。こんな気持ちは普通の子供さん持ったお母さんには分かりゃしませんやろな・・」
 そんな話を、私は随分聞かせていただきました。障がいを抱えた子供さんを授かることで、さまざまな波紋がその家族に投げかけられます。そして、その障がいの程度や障がいの種類によっても、随分波風の角度や強さが違ってきます。
 「父ちゃんがな、いつまで働かんといかんのかって、愚痴こぼすんよ。しかし体が動けるうちは働かせてもらってありがたいと思うんよ。普通はとっくに孫の顔でも眺めて隠居しとる歳ですわな。ぼけんと、あそこが痛いここが痛いと愚痴ゆうて、毎日暮らさせてもらえるだけ、ほんまにありがたいと思うんですわ。死ぬまで現役ですな。普通に生かせてもろうとるだけで、それが幸せですわ。気長うに、愛想つかさんと付き合うていただいて、感謝しとります。」
 そんなありがたい言葉に出合えるときがあります。そんな言葉に出会えると、それまで山のように抱えていたいろんな雑念が、ふと消える瞬間があります。まだまだ人も捨てたものではないなと、しみじみ感じさせていただける瞬間でもあります。(杉)


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