徳島新聞「ぞめき」原稿 杉浦良
No.80 タイトル「代表取締役兼博士」
先日、代表取締役・社会学博士という肩書きを持つ女性とお話しする機会がありました。彼女にとっては一八年ぶりの徳島入りで、大学三年生のとき、徳島で行われたワークキャンプ事業(全国から参加した若者二十人が十日間、障害者地域共同作業所の改造工事や畑の開墾、排水池づくりといった作業を、地元のボランティアとスタッフ、そしてさまざまなハンディを持つメンバーたちと一緒に、泊り込みで作業を行うというもの)に参加しました。その後大学を卒業し、専門のドイツ語を生かして、ドイツの大学・大学院で社会学を学んだ才媛です。
ただドイツで研究者として残るには国籍が邪魔をし、日本に戻ればドイツの大学で学んだことが足かせになるといった現実に直面して、奮起一番、社会調査研究をする会社を起業しました。一時間ほどの話の中で、凝縮された思いと、ここまでの道のりの険しさを淡々と話されました。
私には、このような社会調査研究を仕事とする株式会社が成り立つことにもうとかったし、そこで活躍する彼女の仕事ぶりもイメージできにくかったのですが、話を聞いているうちに、企業・行政・大学といった今までの枠組みではうまく機能しないところを、あえて社会学的手法と株式会社というフットワークの良さで解決しようとする試みだと理解しました。研究費として大学や財団からの助成金も活用しながら、企業からの依頼にも応えていくバランス感覚が必要なわけです。
「ワークキャンプはかなりハードでしたよね。テント生活の上、自分たちで簡易トイレまでつくって・・。一輪車でコンクリートや赤土運んで・・。その時はチンプンカンプンだったけれど、何か心に残って・・。」
「離婚と金融関係以外は何でもやりました。私は外国人扱いの上、女性なので、居直って今の会社をつくったのですが、男性は大変です。賢いといわれる方ほど志向が内向きで、保身にきゅうきゅうとされていると感じました。失敗することを恐れて本当にかわいそう。でもそれではスクラップ・アンド・ビルド(破壊と創造)につながりません。このままでは、日本の今後を切り開く未来も見つからないと思います。でも徳島に来て本当に良かった・・。」
そう語る、きりっとした顔つきの中に、明日を担える可能性を感じました。(杉)
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