徳島新聞「ぞめき」原稿 杉浦良
No.101 タイトル「地域コミュニティー」
十年間、徳島市北島田町で、弁当作りに取り組んできた社会福祉法人ハートランド「あっぷる」が、先日閉店しました。「あっぷる」は精神に障害を持つ方々の福祉事業所で、今後は籠屋町商店街の喫茶店「あっぷる」に、弁当業務を移し統合することで、効率化と事業の充実を図ろうとしています。十一月中には、新しい場所での弁当作りが再開されます。
精神に障害のある人たちにとって、薬を飲みながら、発病前のように、一日中バリバリやる事はなかなか難しいことです。それでもその時の調子の良しあしを、自分なりにバランスを取りながら、弁当作りにかかわりながら、一日一日を過ごすことが、回復への近道となります。調子の悪いときは悪いときなりに、調子の良いときは良いときなりに、服薬しながらバランスを取って、気が付けば、仲間たちと一年間弁当作りにかかわれたその積み重ねが、急がば回れの、社会適応実践プログラムとなるわけです。
弁当に巻かれたメッセージは、時に軽やかに時に重たく、最後はお弁当を買って下さってありがとうございますと、感謝の言葉で締めくくられています。いろいろあっても、自分たちの作った弁当を買ってくれる地域の方々や一般市民の方々がいることこそが、病に引っ張られがちな心を、ピーンとさせる唯一の特効薬かもしれません。
精神の障害は分りづらい分、偏見や誤解も多く見られます。分りにくいことで疑心暗鬼が膨らみ、地域から排除する方向に向かいがちですが、まずはあいさつしながら、顔をつき合わせてひとこと言葉を交わすことのほうが、むしろ地域のリスクは減ることになります。
十年前に北島田町で場所を提供してくださった大家さんの懐の広い心意気と、そこに弁当を買いに来てくださった地域の方々の心温まる勇気に、どこか息苦しく、心がサクサクしがちな地域コミュニティーの在り方の、今後のたどるべき方向を見たように思いました。(杉)
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