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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.19 タイトル「気持ちのアフターケア」

 災害に遭って、怒りに似たパニックに自分が襲われながらも、山ほどの温かい言葉に支えられ、少し楽になれる自分を見つけました。ただそれで明日を見つける自分に出会えるわけではありません。この事実をどう自分の気持ちの中で納得していくのか、といったテーマにぶつかります。
 これこれこういう理由でこのようになって、結果としてこのような災害をこうむることになった、という因果律を組み立てることで納得させるわけですが、それがはっきりしない時が困ります。
 「親の因果が子に報い・・」といわれる背景に、この世の不条理を嘆く人間の叫びに似た悲しさを感じてなりません。原因探し、犯人探しをすることで自分を納得させようとする中で、もし原因が分かったとしても、それで明日が見つかるわけでもありません。
 怒りや不安や憎しみの感情の向こうに、何が見えてくるのか?そう考えた時、「死と再生」という言葉が浮かんできました。心理学者C・G・ユングが「夜の海の航海(night-sea journey)」と呼んだ、苦しく暗い航海を経なければ明るく輝く朝陽としてよみがえることができない、一度は死ななければ再生や復活ができないといったモチーフです。
 災害に遭って大事なものを失うことで、ひょっとして次の再生に、そして今まで越えられなかった新たな次元に移れる可能性につながるのではないか。そうであるならば、この今の厳しい現実を受け入れる覚悟を決めなければなりません。そう考えることでようやく夜のとばりのごとく垂れ込めていた闇の向こうに、少しだけ明かりが見えてきます。すこしだけ見えた明かりに支えられて、荒ぶる感情から少しだけ距離をおきなが、現実を受け入れ、日々日常の生活に足を下ろすことができるのでしょう。
 「焼け太り」とは火災に遭って、火災保険などで以前よりリッチになることを指すのではなく、そこからはい上がり、もう一度再建するなかで今までの価値観や世界観、人生観が問い直されて、人間的にひとまわり成長することだと、ある方が語っておられました。「気持ちのアフターケア」を感じさせられた一瞬です。


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