鮎喰川に向かってなだらかに傾斜した山ろく(約四千平方メートル)に、福祉共働作業所「太陽と緑の会リサイクル」月の宮作業所の敷地がある。ボランティアの協力で少しずつ雑木林を切り開いて造った畑や、作業小屋、生活棟が並ぶ。メンバー、スタッフら六人が日ごろ寝泊りしている生活棟が、ワーカーたち九人の宿舎となった。

 ◆資金なく自前で

 日常生活を通して、できる限りリサイクルを行うのが同会の方針。「生活排水を出すにも金はかかる。資金がないので、何でも自前でやるしかなかったんですよ」と代表の杉浦良(46)は笑う。
 台所といふろの水は排水池に流し込んでためる。小石、炭、砂などを敷き詰めた池底のろ過層を通して地中に染み込ませ、ホテイアオイ(ミズアオイ科)を繁殖させて水中の栄養分を吸収、浄化させている。
 穀類や野菜くずはニワトリのえさにし、それ以外はたい肥を作るためのコンポストに入れる。し尿は浄化槽で処理。千二百リットルのタンクがいっぱいになれば肥料として畑にまく。し尿も分解が進めば鼻を突く刺激臭は消え、泥水とほとんど同じ。浄化槽の好気性バクテリアが死ぬため、台所も含めてせっけん洗剤しか使わない。
 汚水は畑の野菜の栄養分となり、再び食卓に戻ってくる。ビンや缶はリサイクルに回るため、月の宮からゴミとして排出されるのはプラスチック類と再生できないビンだけ。「東京だとゴミは目の前から消えるだけだが、ここではモノの起承転結があからさまに分かる。いいことなんだけど都市ではまず不可能。第一、土がないもの」とワーカーの池田邦央(23)。
 ワークキャンプ中、増え過ぎたホテイアオイを引き揚げ、たい肥の穴に入れる作業があった。汚水は少しどぶ臭い。池にたまったねずみ色の汚濁水、流入口から下流に向けて徐々に薄くなっている。水から揚げたホテイアオイは、葉が厚く茎の中央部の浮袋もよく発達している。

 ◆年に一度の機会

 月の宮での作業は畑仕事に自転車の解体、共同生活の自炊作業など。農作業は草取りや収穫だけでなく、たい肥の仕込みから畑にまく仕事もある。人手不足で畑の世話がままならない同会にとって、ワークキャンプは集中的に農地の手入れができる年に一度の機会。経験の有無を問わず、ワーカーの若者たちは頼りになる存在だ。
 土木会社の事務所兼倉庫を譲り受けて建てた生活棟唯一の冷蔵設備は扇風。どんよりした生ぬるい風が右往左往するだけだが、直射日光の下でほてった体がちょっぴり楽になる。「ここではクーラーに慣れた生活が、逆に擬似的で危ういものに思える。朝夕は涼しいんですよ。ゴミが生かされ、いろんなものが循環しているんです」。実家を十日間も離れるのは今回が初めてだという松尾奈央子(20)=長崎県諫市、サンドイッチ店勤務=が、新しい発見に驚いている。
 生活棟で昼食を終え、一服。畑仕事に疲れ昼寝するメンバーや若者たち。セミ時雨を乗せた風が、さっと通り過ぎた。
TOPへ戻る   前へ  次へ