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徳島新聞「ぞめき」原稿   杉浦良
No.70 タイトル「岩波ジュニア新書」

 友人から一冊の本が贈られてきました。小林茂著「ぼくたちは生きているのだ」(岩波ジュニア新書)。恥ずかしながら岩波文庫や新書は知っていましたが、ジュニア新書というのを初めて知りました。一九七九年から発刊しているこのシリーズは、若い世代に、生きる事の意味を見つめ、現実に立ち向かい、明日を切り開くための知性や感性、そして想像力を育ててもらいたい、という願いから生まれた、とあります。
 突然、脳梗塞で倒れ、言葉がもつれ、左半身がマヒするというアクシデントからなんとか回復したが、その次をどう生きるか?カメラマンでもあり映画監督でもある著者が、自分の半生を子供時代から見つめなおすための叙事詩を書く事になりました。自分の死が身近に感じられるようになったそのとき、自分の人生をいや応なく省みるのでしょう。そんな、どこかとりつかれたように書かざる得なかった気配を、この本に感じました。
 「水の記憶」「風をもとめて」「写真と映画の世界へ」「阿賀に生きる」「カメラマンから監督へ」「わたしの季節」といった各章から、彼がこのような映画を撮り、作るようになった縁(えにし)がひも解かれます。
 もう少し違った生き方もできたのでしょうが、何かがそうさせない因縁と、もうこれで映画は撮れないかもしれないという危機感が、この本を書き終えて、アフリカのストリートチルドレンをテーマにした「空腹を忘れるために」というドキュメンタリー作品を作るエネルギーになりました。今まで、障がい者、水俣病、ハンセン病、炭鉱、農村医療、子供といった領域をテーマにしてきました。病気を抱え、透析をしながら、脳梗塞の再発を心配しつつ、最後となるかもしれない映画作りに、五十三歳を迎える一人の人間が今挑戦しています。
 「・・きみたちの前途にはこうした人類の明日の運命が託されています。ですから、たとえば現在の学校で生じているささいな『学力』の差、あるいは家庭環境などによる条件の違いにとらわれて、自分の将来を見限ったりはしないでほしいと思います。・・簡単に可能性を放棄したり、容易に『現実』と妥協したりすることのないようにと願っています。・・」
 ジュニア新書発刊の辞が、まさに的を射た言葉としてよみがえります。(杉)


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