徳島新聞「ぞめき」原稿 杉浦良
No.103 タイトル「恩師の言葉」
昔、私の恩師が、赤表紙のタイムを読みながら「米国のクリントン大統領はすごいね!所信表明演説にスピリットというかコンセプトがきちんと入っている。日本の総理大臣のとは大違い。日本のトップはお粗末だよ。」と嘆かれていました。
私は英文の演説内容を読んだり、日本の総理大臣のものをしっかり読んだことがなかったので、演説内容の比較や検証でなく「では先生、日本のトップがお粗末ならば、お粗末でない日本人はどこにいるのでしょうか?」と尋ねました。
「それはね、在野にいるんだよ。全国に名は知られていないが、立派な日本人がこの日本を支えているから、日本がまだなんとか保っていけるんだな。」なるほどと思いつつ、そのときはあまり気に留めませんでした。
この前「失言と報道の責任。医師の心折る、誤解と偏見」と題して、新聞に、精神科医である斎藤環氏が麻生総理の失言問題について書かれていました。「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」とした発言に対し、総理の発言を含め、マスコミの医療事故などでの言葉が、先入観と偏見に満ちたものであると述べています。
「『医師の非常識』『医師のモラルの低下』などのイメージは、ほぼ確実にマスコミによる医療バッシングの影響下にある。・・一線で働く医師に丁寧に取材をすれば容易にわかることだ。・・労働基準法など無視が当たり前のような過酷な労働環境で、献身的に働く無名の医師たちの姿がそこにある」と語られています。
そして「日本では有名な人は大したことがない。無名の人が偉いのだ。めだたないところで、勤勉と工夫で日本を支えている無名の人が偉いのだ。この人たちが心理的に征服された時、太平洋戦争が始まった」と、恩師と思われる精神科医、中井久夫氏の言葉を引用されていました。
この言葉に誘発されて、私の恩師の言葉がよみがえり、偶然とはいえ、同じ言葉を語る恩師の存在が重なりました。おかげさまで、医療の世界以外にも福祉や環境といった領域で、私は同じような光景を、たくさん見させていただいています。(杉)
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